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この報告書は「防府山の会」の会報(山想)用に執筆したものです、写真入りのものはこちらから

   
                  剱岳(源次郎尾根)登山報告書                                                                                                                                   2003年8月21日
◇ 日 程     2003年8月13日(水)〜17日(日)

★8/14(木) 冷たい雨に強い風
 (9:00)室堂到着、冷たい雨に強い風、(9:30)山田班と別れ雷鳥平へ向かう、雷鳥平から剱御前小屋まで歩行距離で約2kmの登り、(11:50)剱御前小屋到着、小休止。気温が低いため熱いものを注文。(12:00)Y班と定時連絡、無線機で呼ぶが応答なし。昼食後、剱沢小屋に向けて剱沢を下る。雨の中、可憐に咲き誇るチングルマに癒されながら降りていく。(13:15)剱沢小屋テント場に到着。70〜80張りのテント有り、相変わらず冷たい雨が降る、風もある、雨の中でのテント設営は辛い。テント内で暖房を兼ねたランタンを点ける。明日の天候が気にかかる。

★8/15(金) 曇り後晴れ
 (6:40)早朝、頂上がガスに隠れていた剱岳が、今は全く見えず視界が悪い。天候の回復がわからず、残念ながら今日の八ツ峰からの本峰アタックは断念した。明日に備えて休養しよう。14時過ぎより気温上昇、どうやら天候回復に向かっているようだ。(15:30)剱沢小屋テラスにてY班と合流、昨日以来無線機での連絡がとれず、多少予定より遅れていたので心配していた。まずは安心、互いに昨日の報告をしあう。14時過ぎよりガスが晴れ、威風堂々とした剱岳が次第にその全容を見せはじめる。16時ごろ(2年越しの)山頂がやっと見えた。明日の成功を予感させる、早く寝る。

★8/16(土) 昨日の天気が嘘のような快晴
       「源次郎尾根:剱岳(2998m)の頂上から剱沢に向けて高度差950m、
                    北に長次郎谷、南に平蔵谷、途中に2つのピーク(T峰:2709m)をもつ」
 (3:00)起床、外は満点の星空、月明かりでヘッドランプもいらないくらいだ。風少しあり、朝食と身支度をすませ(4:40)テント場を発ち、真砂に向けて出発する。後方に他のパーテが続く。剱沢の雪渓の水が大きな音を立てている、ずいぶん明るくなった。(5:02)登山道が雪渓に入る、ここでアイゼン装着、これより雪渓を下る。スプーンカットされた雪面をとらえるアイゼンの爪が、心地よく効く。ほどなく目印の大岩が視界に入る、左手に平蔵谷が上方までも見える。大岩の先の草付の斜面に、登りの踏み跡がはっきりとわかる。(5:25)源次郎尾根取付地点到着、アイゼンを外しカッパを脱ぐ、これより草付の急斜面を登っていく。足元が滑る、落石を起こさない様に、周りの草を掴んで慎重に登る。すぐに短い岩場が見えてくる、ここで先行のパーテがザイルを出していた、岩が濡れているせいか、慎重だ。しばらく停滞、我々の順番、F(L)が先に登り、私も手足が滑るがなんとか登りきる。先のパーテが道を譲ってくれた。しばらくは、急傾斜の低灌木地帯を、ハイマツの枝やナナカマド、ダケカンバなどの枝を掴んで、時にまたいだり、下をくぐったりと、まるでジャングル探検のようだ。二度、距離は短いが安全のためにザイルを出してもらった。(6:49)明るい尾根に出た、T峰の菱形の大垂壁が左真上に見える。この尾根の踏み跡ラインは、テント場からでも目視で確認出来た場所だろう、ここで小休止。快晴!目の前にはT峰正面の大垂壁が迫って見え、後ろを振り返れば、剱沢雪渓の先にテント場が小さく見える、それを取り囲むように別山、剱御前、さらに遠く名前はわからない峰々がいくつも肩を並べている。三級程度(?)の岩場でも、サイドが切れ込んでいて緊張する場所が何箇所もあった。緊張のせいか、呼吸がはずむ。凹状のチムニーや草付の急斜面を進む。(7:41)T峰の頭に到着、正面に本峰、右を見れば、大迫力の八ツ峰、切れ込み部が5・6のコル。コルから左に6峰のA,B,Cフェース、巨大なサメの歯を少し傾げて、いくつも突き立てた感じだ。コルから右はテント場からも見えたあの独特なノコギリ型のライン。この場所から見ると、巨大なノコギリの刃という表現がぴったりだ。足元にはスキー場のように広い長次郎谷、その谷の底に、何組ものパーテが列をなしているのがまるで蟻のようだ。雪渓中央には巨大な「熊ノ岩」がデンと(熊の手を置いているように見える)、長次郎谷を見下ろしている。熊ノ岩から長次郎谷左俣・右俣(池ノ谷乗越へと続く)に別れ、互いに、はるか稜線まで雪渓がのびる。(7:50)T峰を下り、U峰の登りにかかる。(8:10)U峰の頭に到着、小休止。正面、顔を上げれば本峰頂上に立つ数人の人がはっきりと見える。右に目を向ければ、八ツ峰の6峰・7峰・8峰・それに8峰の頭と独特な針峰群が大きく連なる。熊ノ岩のふもとに、数張りのテントが見える。しばらく岩稜地帯を進み、(8:25)U峰懸垂下降地点に到着。前方に、本峰への最後のガレ場をゆっくりと登っていくパーテが、一組見えるだけ。待ち時間はなく、すぐに懸垂下降の準備にかかる。(他のパーテがあると順番待ちになる)F(L)が手早くザイルをセットし(50mをダブルにして)早々に下降していく。続いて私が、下に声を掛け下降開始、あっという間にテラスに着地、高度感もあってスリリングな懸垂下降。ザイルを回収、テラスより数歩歩いて、前の岩に飛び移り、コルに到着、ここでザイルを巻く。これから本峰への最後のガレ場を登っていく。(9:05)ガレ場途中で小休止、何度も周りを見渡すが、ほんとうにすばらしい展望!別山の後方に、どっしりとした立山が見える。2年目にしてようやく恵ってきた、幸運な一日。9:30)本峰到着、F(L)と固い握手で無事登頂を祝う。快晴360度視界良好、多くの登山客。Y班と定時連絡の無線、あいかわらず交信出来ず、この感激を伝えたかったが残念。一般ルート下山開始、カニのタテバイ(下り専用)では数人の順番待ちあり、12:25^13:00)剱山荘到着、昼食(カレーライス:1000円)、ビールで乾杯!13:20)剱沢テント場到着、テント撤収、剱御前小屋に向けて帰路につく。15:02)剱御前小屋到着、ガスで何も見えない。16:30)雷鳥平到着(17:20)みくりが池温泉到着、Y班の三人(Yさん、Mさん、Sさん)の出迎えあり、予定より遅れ皆さんに大変ご心配をかけました。

★8/17(日) 冷たい雨に強い風 
朝一番のバス(7:20)で室堂〜美女平へ 、北陸道〜名神〜中国道〜山陽道、交代で運転、予定どおり、防府市役所(20:00)に到着。

◇ 思いつき(項目6〜12は源次郎尾根からの本峰アタックに限って)
1.   テント場の水は豊富(無料)であるが、そのままでは飲めない、沸かして飲もう。
     持って行く場合は、事前に湯冷ましにするか、ポットに入れる。
    勿論、剱沢小屋にて、お茶・水・アルコール(例:500ml缶  ビール700円)等販売あり。
2.八ツ峰又は源次郎尾根からの本峰アタックに際しては、天候(気温)や個人差もあるが、
    2リットルの水があれば十分と思われる。
3.テント内での火気の取り扱いには特に(飲酒後)注意を!
4.ガスボンベは今回、250mlを2本持っていったが、気温が低い日が続くと、ちょっと心細い。
   2人で3本は必要かな。
5.サブザック(八ツ峰又は源次郎尾根からの本峰アタック用)は出来る限り、軽量にしよう。

    参考までに私は、9kgくらいでした。次の表がサブザックの内容です。

サブザックカバー、雨具、地図、コンパス、登山計画表、保険証(コピー)、水筒(1.8 リットル用)、予備メガネ、ヘッドランプ、アイゼン(6本爪)、非常食、行動食、クライミング用品一式、ヘルメット、デジタルカメラ、救急薬品、レスキューシートなど

    ただし、サブザックがあまり軽量(薄手の素材)だと、途中のブッシュで破けることもあり、
       F(L)はこの他に、11mm×50mザイル1本、無線機など

6、クライミングシューズは持っていかなかった(特に必要な岩場も無かった)、ヘルメットは必携。
    ハイマツ等の枝を掴んで登る場所が多く、手袋も必携。
7、早寝、早立ちをしよう、遅いと、どうしてもザイルが必要な場所での順番待ちがあるようだ。
8.T峰の登りに右にルンゼ(谷底)を登るルートもあるが、落石に苦労しているようだった。
     左側の尾根コースが安全。
9.T峰の登り下り、U峰の登りは傾斜もきついので、特に慎重に。
10.U峰の懸垂下降地点には太いクサリがあり、それに数本のスリングが残置されている。
      この残置スリングが、信頼出来るものか十分確認してザイルをかけよう。

11.U峰の懸垂下降の長さは、いろいろな情報があったが、50mのザイルをダブルにして、
     ぴったりだった。忘れず、二本のザイルの端はしっかりと結んでおこう。

12.U峰の懸垂下降以後は、本峰への急なガレ場の登りになる、落石に注意し、
     ガス等特に視界が悪いときは、迷いやすいので、慎重にルートを探そう。
13.陶ヶ岳でのクライミングの練習では、10kgくらいの荷を背負った練習も必要と思われる。
14.カニのヨコバイ(下り専用)では最初の一歩を思い切って、身を乗り出し、足場を見れば
      後は大丈夫。但し、一般ルートとはいえ、厳しい箇所も多くあるので、慎重に行動しよう。
     また、たくさんの人の靴で、岩の表面がツルツルになっている所もあり、いずれも要注意。
15.下山の頃には、ガスが発生、山頂での展望を楽しむには、早めの登頂を心がけよう。
16.デジカメ用のCFカード(128M)を入れて登ったが、私のミスでF(L)に大変ご迷惑をかけました。
     肝心なときに 「CFカードがいっぱいです」なんて、ならないようにしよう。

◇ 独断と偏見による感想
 剱を代表する八ツ峰を眼前に見られるのは、源次郎尾根をおいては他にないと思う。独特な針峰群が間近に見られる唯一の場所だ。昨年見られなかった、仙人池からの八ツ峰よりも、このルートから見る八ツ峰の方が、きっと数倍もダイナミックで素晴らしいと思う。残念ながら、写真ではその圧倒的な迫力は伝わらないし、私の多少ボケた脳裏にさえ、深く刻み込まれた映像も、開いて見せる事も出来ないが・・・
◇ 最後に
 日程に余裕があれば、本峰までゆっくり登り(出発は早く)、宿泊は剱山荘または剱沢小屋あるいは剱沢でテント泊にすれば、八ツ峰を心ゆくまで堪能することが出来るでしょう。
今回、5時間(テント場〜本峰まで)という短時間(らしい)で目的を達成する事が出来ました。
1.   天候に恵まれた。
2.   待ち時間がほとんど無かった(二番手)。
3.   リーダーが同行者の技量を的確に把握していた(これくらいは登れる、ここはザイルが必要など)。
4.   右田ヶ岳・陶ヶ岳でのトレーニングのお陰で、クライミングやザイル操作がスムースに出来た。
5.   F(L)の素早いザイル操作や、ルートファンデングが的確だった。
◇ コースタイム(参考)

     8/14  室堂・・・・・雷鳥平・・・・・剱御前小屋・・・・・剱沢小屋
           9:00     9:40    11:50^12:35     13:15

     8/15  天候不順により八ツ峰は中止

     8/16  剱沢小屋・・・源次郎尾根取付・・・T峰・・・U峰・・・・・剱岳・・(一般ルート)・
            4:40        5:25       7:41  8:10   9:30^10:30  

           ・・剱山荘・・・・・剱沢テント場・・・・剱御前小屋・・・みくりが池温泉
           12:25^13:00  13:20^14:10      15:02       17:20

参考文献:日本のクラシックルート(山と渓谷社)、剱・立山(昭文社:山と高原地図37)
この、素晴らしいルートにチャレンジされる方の、お役に立てれば幸せです
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